いつの頃からか「432ヘルツチューニング」というのが世界中で話題になっています。
432ヘルツチューニングとはなんでしょうか?
音楽はドレミファ……という「音階」で表現されますが、どの音をどのくらいの高さで鳴らすか(演奏するか、歌うか……)を決めておかないと音階は成立しません。
現在、私たちが日常で耳にする音楽のほとんどは、A(ハ長調/イ短調でいうと「ラ」の音)を440Hzという周波数に合わせて演奏されています。
A=440Hzが国際的に決められたのは比較的新しいことで、1917年にアメリカの音楽協会がA=440Hzを決めて、その後、1953年にはISO(国際標準)でも正式にひとつの基準として認定しました。
しかし、クラシック音楽の歴史を遡れば、A=440Hzというチューニングはむしろ異端で、時代によってもっと高かったり低かったりしたと言われています。
昔は音楽を音として記録する方法がありませんでしたが、音叉の一部が残っています。そこから推察すると、どうやら17世紀の段階では、A=370~560Hzという相当いい加減なものだったようです。
これが少しずつA=420Hzに近づいていき、
ヘンデルが使った音叉はA=422.5Hzだったといいます。ベートーベンの時代にはA=433Hzまで上がり、ピアノのスタインウェイ社は435Hz~460Hzまで、何種類ものピアノを作っていたと言います。
1884年、作曲家のジュゼッペ・ヴェルディは、コンサートピッチをA=432Hzにするべきだと主張する手紙をイタリアの音楽協会に送っています。
432Hzチューニングが「ヴェルディ・ピッチ」と呼ばれるのはそのためです。
なぜ432Hzなのか?
彼はこれがいちばん人間の生理に合っていて、宇宙のあらゆる秩序にも無理なく溶け合うと考えたようです。
これが元になって、
ネットを検索すると、鉄板の上にまいた細かい砂に440Hzと432Hzの音をぶつけると、作りだす模様の美しさが432Hzのほうが美しいだとか、432を60倍した25920という数は惑星歳差運動周期の年数
だとか、実に様々な話が出てきます。
それに合わせるかのように、このような調和的な調律をさせずにA=440Hzに決めたのは、その刺激的な音楽を聴いて人びとが攻撃性を増すように仕組んだためで、背後にはナチスやイルミナティやロックフェラー財閥があるだのなんだのというおなじみの「陰謀論」も出てくる始末です。
私は「陰謀論」とか「トンデモ」いう言葉で議論を封じ込める風潮は危険視しているが、さすがにこれはちょっと……と思うのです。
528hz の音は A=440Hz にした純正律のCの音
特定の周波数の音が人間にプラスの、あるいはマイナスの影響を与えるという話は他にもあって、中でも有名なのが
「528Hzの音は損傷したDNAを修復する機能がある」といったもの。
でも、
528Hzというのは、純正律でA=440HzにしたときのCの音の周波数に近いんです。
純正律というのは、
周波数比が単純な整数比の音程でつくられた音律のことです。
純正律で調律されたピアノでは、A=440Hzにすると各音名の周波数は以下のようになります↓。
↑A=440Hzにしたときの純正律周波数表
純正律での基本的な和音(ハ長調ならドミソ、ドファラ、シレソなど)は各音の周波数が整数比で構成されるので美しく響きますが、この調律のまま、例えばニ長調に転調したメロディや和音は非常に気持ちが悪い響きになります。
例えば、ハ長調(Cメジャー)を純正律でチューニングしたピアノでは、基音Cと5度上のGの周波数比は2:3ですが、このチューニングのまま1つ上のニ長調(Dメジャー)の曲を弾くと、基音のDと5度上のAの周波数比は27対40というものすごく半端な比になり、気持ちが悪く聞こえます。
従って、
転調やテンションコードを多用する音楽では純正律は使えないわけです。ジャズもボサノバも、多くのポップスも演奏できない不便なチューニングなので、現在の音楽シーンで純正律が使われることは、一部の合唱とか弦楽器だけでハーモニーを重視する演奏など、稀なケースしかありません。
今、私たちが普通に聴いている音楽は純正律ではなく、
平均律でチューニングされています。
平均律というのは、1オクターブを単純に12等分して割り付けた音階のことです。どの音の間隔も同じなので、演奏の途中でも自由に転調できますが、自然数倍の周波数からは少しずつずれるのですべての和音が微妙に濁って聞こえるという人もいます。
この平均律でA=440HzにしたときのCの音は約523Hzです。
同様に、A=432Hzにしたときの平均律でのCは約514Hz。
ということは、よくある「身体にいい528Hzの音を含んだメロディやコードを多用した音楽」というのは、A=440Hzで純正律チューニングした単純なメロディと和音で作られた音楽、ということになりそうです。
A=432Hzチューニングが身体によいというのであれば、純正律でも平均律でも528Hzという音は出てきません。
また、音階の中に528Hzの音を含んでいなければならないというのであれば、純正律でも平均律でもA=432Hzにはなりません。
いずれにしても、A=440Hzが悪魔の調律という話とは矛盾していますね。
実際に聴き比べてみる
というわけで、普通に考えると、平均律で作られた音楽を聴いている限りにおいては、A=440HzとA=432Hzを比べれば、全体に432Hzのほうが低い、ということでしかないように思います。
ただ、まったく同じ曲・同じ演奏のデータを440Hzと432Hzにして聴き比べてみると、432Hzのほうが少しだけ低い分、なんだか落ち着く感じがするという人は多いかもしれません。
以下にサンプルを用意しました。
すべて、片方がA=440Hz、もう片方がA=432Hzの平均律でチューニングした演奏ですが、どちらがどちらだか分かりますか?
低く聞こえるほうがA=432Hzなので聞き分けは簡単だと思いますが、では、どちらがあなたにとって聴いていて気持ちがいいでしょうか?
よくYouTube上にあるサンプルのように短いものでは分からないと思いますので、1分前後とりました。
どちらがどちらかという
答えは⇒次のページにあります。
sample A-1
sample A-2
A-1 と A-2 どちらが432Hzでしょう? また、どちらが気持ちよく聞こえますか? 以下、同様にテストしてみてください。
sample B-1
sample B-2
どちらが432Hz? どちらが気持ちよい?
sample C-1
sample C-2
どちらが432Hz? どちらが気持ちよい?
sample D-1
sample D-2
どちらが432Hz? どちらが気持ちよい?
sample E-1
sample E-2
どちらが432Hz? どちらが気持ちよい?
sample F-1
sample F-2
どちらが432Hz? どちらが気持ちよい?
sample G-1
sample G-2
どちらが432Hz? どちらが気持ちよい?